博士論文発表会(2014年10月15日)

下記のとおり博士論文発表会を行います。

日時/Date:平成26年10月15日(水)13:00~15:00/15th October, 2014 (Wed) 13:00-15:00
会場/Place: 緑が丘 創造プロジェクト館 1階大会議室/Midorigaoka M5 building, Meeting Room
司会教員/Chairman:高橋 章浩 准教授/Asso Prof. TAKAHASHI
発表者/Presentor:塚田智之(つかだともゆき)/Tomoyuki TSUKADA

略歴および研究論文の概要

略歴
昭和63年(1988)3月:東京工業大学工学部土木工学科卒業
平成2年(1990)3月:東京工業大学大学院総合理工学研究科社会開発工学専攻
           修士課程修了
平成2年(1990)4月:東京電力(株)入社、蛇尾川水力総建設所第一建設所
           第一土木課勤務
平成16年(2004)7月:東京電力(株)神流川水力建設所上野第一工事事務所
           下部ダムグループ グループマネージャー
平成22年(2010)7月:東京電力(株) 建設部 土木・建築技術センター
           水力土木技術グループ グループマネージャー
平成24年(2012)10月:東京電力㈱ 松本電力所土木建築グループ 
           グループマネージャー
平成26年(2014)7月:東京電力(株) 建設部水力土木技術担当 現在に至る

研究論文の概要
論文題目「東北地方太平洋沖地震時の八汐ダムの挙動と損傷状況に基づくアス
ファルト表面遮水壁の変形追従性に関する研究」

以下 概要

 八汐ダムは東京電力㈱が栃木県那須塩原市に建設した最大出力90万kWの
揚水式発電所 である塩原発電所の上部ダム調整池用に築造した、高さ90.5m
のアスファルト表面遮水壁型ロックフィルダムである。堤高90.5mはこの型式
としては国内では最も高く、世界でも最高クラスのものである。このため、設
計段階では細部にわたる検討が行われており、通常のフィルダムの設計で用い
られる円弧すべり計算では1.2とされる安全率を1.3とし、上下流面勾配を
1:2.0とするなど最大限の配慮がなされた。
 八汐ダムは1994年の初号機の運転開始以降安定した挙動を示しており、表
面遮水壁からの漏水も0であった。しかし、2011年3月11日の東北地方太平
洋沖地震後に表面遮水壁からの漏水が確認され、その後の調査で遮水壁に左岸
側に長さ70、右岸側に長さ80mの計2条のひび割れが確認された。この地震
において八汐ダムに配置した加速度計では基盤で最大53gal(ダム軸方向)、天
端で最大253gal(上下流方向)のダム建設以降最大の加速度が観測されたが、
これらは設計段階に実施した2次元での動的解析で想定していた地点における
既往最大の地震(1,683年 日光地震 M7.3)相当の基盤266gal、天端1,146gal
に比較して小さいこと、ひび割れの発生が左右岸アバット近傍にアバットとほ
ぼ平行に生じていることから、3次元的な堤体の挙動によるものと考えられた。
 八汐ダムの表面遮水壁は地震から約3ヶ月後には補修工事を完了して漏水を
完全に止水できたため、変状が生じても変状箇所の調査や補修が容易であると
いうこの型式の最大の長所が発揮された。しかしながら、これまで設計ではあ
まり重視されていなかったダムの3次元的な挙動により比較的小さな地震で損
傷が生じるという想定外の事象が生じたことを踏まえて、本研究では八汐ダム
の堤体内12箇所、近傍の地山に1箇所の計13箇所に設置した3成分の加速
度計の観測記録を有効に活用して、ダムの挙動の分析や3次元動的解析による
観測記録の再現計算を行った。
 解析による観測記録の再現性を確認した後、解析結果から推定された表面遮
水壁に生じたひずみはひび割れが生じるレベルではなかったという結論を得た。
このため、解析結果と現地の損傷状況、ダム天端の構造を総合的に分析した結
果、八汐ダムの天端には遮水壁をダム天端に接合するための天端コンクリート
があり、このコンクリートのブロックジョイントに地震中のひずみが集中した
ことをひび割れの発生要因と推定した。
 また、天端でひずみが集中する範囲は限定的であり、ひび割れが天端から下
方へ70~80mまでの範囲で生じていたことについては、繰り返し疲労特性や、
湛水により地震前に生じていたひずみによる影響を評価し、また、ひび割れ先
端部へのひずみ集中による変形追従性の低下傾向を切り欠き梁を用いた曲げ試
験を実施して調査し、表面遮水壁の変形追従性に関する評価を行い、更には温
度応力による影響についても評価して実現象との比較を行った。これらの評価
の結果、天端コンクリートのブロックジョイントにひずみが集中し、この付近
で生じたひび割れの先端に、その後の地震による変形時にひずみが集中し逐次、
ひび割れが進展し、さらに、外気温の低下や水位変動により表面遮水壁の温度
低下が生じてさらにひび割れの進展を助長したという結論に達した。
 上記を踏まえると、八汐ダムの表面遮水壁は地震時の変形に対する十分な追
従性を有しているが、ひずみが集中した場合には今回程度の規模の地震動で損
傷が生じる可能性があることが分かった。以上より、ひび割れが生じた部分の
補修工法としては、既設の遮水壁と同等以上の変形追従性を有する構造とする
こととし、かつ、設備の早期運用再開や経済性を指向して、低弾性アスファル
トを使用したアスファルトマスチックを目地材的に用いる工法を採用し、撤
去・再施工する領域の縮小を図ることを提案した。また、天端コンクリート接
合部については、低弾性アスファルトを使用したアスファルトマスチックを目
地材的に用いることに加えて、ひずみが大きくなる領域を低弾性アスファルト
を用いたアスファルトコンクリートで置換することで、大きな変形にも追従可
能とすることができることを示した。
 本研究は以上の内容について、今後の同型式ダムの設計・維持管理において
配慮すべき内容として取りまとめたものである。

(2014.09.03掲載)

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